JMMAのS&Cは遅れているのか|MMA向け年間設計と怪我予防
JTTの事例を手がかりに、MMAに特化したS&Cの基礎を整理。エネルギーシステム、筋力・パワー、FMSとプレリハ、VBT、ファイトキャンプ期分け、オーバーワーク対策までを読み物として解説。
前置き
ビリーの騒動の際に、「JTTにはS&C(ストレングス&コンディショニング)コーチが不在で、その分野が遅れている」という指摘がありました。
S&Cは、スポーツパフォーマンスの向上と怪我の予防を目的に、筋力・パワー・持久力・柔軟性などの体力要素を総合的に調整する取り組みです。競技特性に即したメニューを設計し、選手ごとのコンディション管理まで担うのがS&Cコーチの役割。プロサッカー、野球、バスケットボールではチーム専属コーチがいるのが当たり前の世界です。
ビリーは「JTTにはS&Cコーチがいないし、JMMA全体でも競技特性に合わせたS&C人材がまだ少ない」と主張していました。B.E.A.T外苑前やHALEOのような取り組みはあるにせよ、なお発展途上なのか? と疑問に思い、検索とChatGPTで勉強した内容を記録しておきます。
MMA選手に必要なフィジカルって?
エネルギー(スタミナの構成)
MMAは通常5分×2〜5R、インターバル1分。アマチュアは3分ラウンドもあります。
試合全体では有酸素的な持久力が求められる一方、決定的な局面は8〜12秒程度の高強度アクションで生まれることが多いと言われます。つまり、無酸素性(爆発力)と有酸素性(持久力)を同時に鍛える必要がある、きつい競技です。
筋力・パワー
ストライキング、レスリング、グラップリング――全身を使う競技なので、全身バランスの良い筋力・パワーが必須。特にグラップリングでは握力や関節を大きく動かさずに出力する力が重要とされます。
また、単発の最大出力だけでなく、パワーを維持して繰り返し発揮する能力、そして体幹の安定性が勝敗を分けます。ラウンド後半でもパワーを落とさないこと。体幹の安定は打撃の伝達効率、グラップリングのコントロール、被弾・受け身時のバランスにも直結します。
怪我予防戦略
MMAは怪我が多い競技です。筋骨格系の障害は試合中に発生することが多く、部位としては頭部・顔面が目立ちます。防御側の選手に傷害が集まりやすいのも特徴です。
さらに、身体の左右差(非対称性)が10%を超えると、怪我のリスクが70〜90%増するという報告もあります。定期的に測定し、左右差を小さく保つことが重要。利き腕と逆の腕の出力もできるだけ近づけたい――口で言うほど簡単ではありませんが、意識は欠かせません。
ファンクショナル・ムーブメント・スクリーニング(FMS)
FMSは、動作のクセや筋バランスの偏りを7つの基本動作で評価する方法。結果に応じて補強メニューを処方し、弱点を是正します。
プレリハビリテーション(“怪我をしないための下ごしらえ”)
MMAでのプレリハは以下が柱です。
- 柔軟性・モビリティ (可動域の確保・向上)
- 神経筋コントロール (バランス・制御)
- 関節と結合組織の強化
- 左右の筋力バランスの調整
特に首(被弾時の衝撃緩和、引き込み耐性)と膝(外反の予防)は重点部位。
クールダウン時に太極拳のような緩やかな動作制御トレを取り入れて神経筋の制御力を高め、バランス向上→怪我予防につなげるアプローチも有効とされます。
MMAに特化した年間トレーニング構成
MMAの難しさは**「シーズンがない」こと。試合が突然決まる(3週間前だったり4か月前だったり)ため、年単位の計画が立てづらい。試合数が少なく1試合の重要度が極めて高い**点も、他競技と違うところです。
もう一つの落とし穴がオーバーワーク。日々の技術練習にS&Cが重なると、総量が過剰になりやすい。だからこそ、その日の技術練習を“負荷”として勘定し、S&C側で総量を調整する発想が必要です。
また、MMAは持久系(有酸素・無酸素)と筋力・パワー系を並行して伸ばすコンカレント・トレーニングが必須ですが、無計画に同時進行すると干渉効果で両方の伸びが鈍る懸念も。
対策として、以下のようにフェーズを分ける設計が現実的です。
日常フェーズ
- 目的 :身体の維持、スキル反復、体調管理、軽度の能力向上
- 期間 :通年(週4〜6回)
- メニュー
:
- 技術練習(基礎の打撃・レスリング・グラップリング)
- 軽度の筋トレ(自体重〜中重量)
- 軽い有酸素(ジョグ・バイク・スイム)
- モビリティ・ストレッチ中心の回復
- メンタルケア・睡眠最適化
ファイトキャンプ前フェーズ
- 目的 :体力基礎の構築、筋量の確保、有酸素土台づくり
- 期間 :試合未定期〜試合の6〜8週間前
- メニュー
:
- 筋肥大(8〜12回×3〜4セット)
- LSD中心の有酸素(目安60分)
- 技術反復(1日1セッション)
- 体重調整(必要に応じて増量/減量導入)
- ムーブメント・可動域ドリル
ファイトキャンプ(6週間想定)
第1〜2週
-
高重量の筋力・パワー(3〜6回レンジ)
-
解糖系インターバル(例:4分ON/2分OFF)
-
テクニカル・スパー導入
-
ドリル・シチュエーション強化
第3〜4週
-
スピード・敏捷性中心
-
エネルギー系はATP-CPや乳酸耐性へシフト
-
実戦スパー比率を増やす(5分3R想定)
-
減量準備(塩分・水分管理開始)
第5〜6週
-
ボリュームを落とし神経刺激中心(テーパリング)
-
ゲームプラン・戦術の擦り合わせ
-
体重最終調整(カーボディプリート&ローディング)
-
回復と睡眠を最優先、疲労の持ち越し防止
試合後フェーズ(1〜2週間)
- 目的 :心身のリセット、傷害のケア、次フェーズへの橋渡し
- メニュー
:
- 軽い有酸素(ウォーク、スイム、ヨガ)
- ストレッチ・モビリティ回復
- 必要に応じてメディカルチェック
- 精神的リリース(家族・趣味・小旅行など)
- 睡眠と栄養でホルモンバランス回復
※「日常」と「ファイトキャンプ前」は行き来します。たとえば筋量・出力・スタミナに課題があるなら、日常フェーズで先んじて前倒し強化しておく、という使い方もOK。
まとめ
MMAは、筋力・持久力・柔軟性・俊敏性・戦術など多面的能力を同時に要求する競技。効果的な年間設計には、
- 科学的根拠に基づく フェーズ分け
- 怪我予防 と 左右差の是正
- 柔軟性・呼吸・神経系 を含む回復戦略
- 試合期に向けた テーパリング と 減量設計
- 神経筋の強化(必要に応じて VBT などの手法も活用)
が鍵になります。
そして、鍛えることと同じくらい「計測すること」が重要。指標を可視化し、日々の変化に応じて総量や強度を微調整できる環境が、選手のキャリアを長く、かつ高い水準で保つ土台になります。
S&Cは専門領域で、にわか勉強で身につくものではありません。だからこそ、スポーツ現場に専門職として根づいている。
ジムに常駐のS&Cコーチを置くのは簡単ではないかもしれませんが、JTTにそうした機能が整っていく未来を期待したいところです。